ILLUSTRATION CONTEST 2024

コラム

ポケモンカードゲームのイラスト制作の裏側
「1枚のイラストが出来るまで」

ポケモンカードゲーム公認イラストレーターとして活躍されている江川あきら氏に、
「ミロカロス」のカードイラストの制作過程を特別に語っていただきました。

江川あきら・ミロカロス

江川 あきら

イラストレーター・キャラクターデザイナー。2019年よりポケモンカードゲーム公認イラストレーターとしてイラストを制作。3Dモデラー時代の経験を活かし、ゲーム、書籍、展示やプロダクトなど、様々な分野で活動している。「カッコいいとはなにか」を求めて日々修行中。『ポケットモンスター 金・銀』『ポケットモンスター クリスタルバージョン』からポケモンに触れており、ミュウツーが大好き。

ミロカロス」 イラストレーター:江川 あきら
ポケモンカードゲーム ソード&シールド 強化拡張パック「爆炎ウォーカー」収録
ポケモンカードゲーム ソード&シールド ハイクラスパック「シャイニースターV」収録

イラストを描くときに心がけていること

―――最初に、江川さんがポケモンカードゲームのイラストを描くときに大切にしていることをお聞かせください。

自分が最も心がけているのは、ポケモンの「いきざま」が見えるように描くということです。ポケモンたちがどこでどんなふうに暮らしていて、どんなことが得意で、どんなふうに本気で生きているのか。そのいきざまを自分は「カッコよく」描きたいと思っています。

―――「カッコよさ」へのこだわりがあるのですね。

物心ついたときからカッコいいものが大好きなんです。ヒーローやヒロインが活躍するTV番組を夢中になって観てきましたし、なにより敵と戦うバトルシーンがめちゃくちゃ好きでした! そういうところからカッコいいものが大好きになり、今でもこだわって描いています。

STEP1. ポケモン決定~下調べ・構図検討

―――「ポケモン決定~下調べ・構図検討」はどのように行われるのでしょうか。また、発注時に、クリーチャーズからどのような資料が届きますか。

事前に決められた発注予定日になると、メールで発注書をもらい、そこで初めて自分が担当するポケモンを知ります。そのときは宝箱を開けるような楽しみがありますね! そして、提供いただいたポケモンの資料を確認しながら「今回のイラストはあんなふうにしたいな、こんなふうにしたいな」と妄想を膨らませて、描くポケモンとの距離を縮める作業を開始します。

江川あきら

―――次のステップの「ラフ作成」は、江川さんはどのように行われていますか。ポケモンの下調べの方法から具体的に教えてください。

最初に必ず、ビデオゲームのポケモン図鑑に掲載されている、いわゆる図鑑テキストを読みます。生き物図鑑を読むように、「このポケモンはどのようなところに棲んで、何が得意で、何を食べているのか」などを確認しますね。そのあと、そのポケモンに近いと思われる動物や生物の資料を集めたり、「ポケモンカードゲーム トレーナーズウェブサイト」で「カード検索」したりして、これまでにポケモンカードゲーム公認イラストレーターの皆様が制作したカードイラストを確かめ、構図や雰囲気が自分の思い描くイメージとかぶらないか確認します。また、そのポケモンがビデオゲームでどのように活躍しているかを確認するのはもちろん、TVアニメや劇場版に登場するポケモンなら、それらもしっかりチェックして……などなど、様々な資料探しを経てからようやく、イラストの構図や背景のイメージを固めていきます。

―――下調べに時間をかけていますね。

そうですね。資料集めにはかなりの時間をかけます。頭の中で描きたいイメージをしっかり決めてから描き始めるタイプなので、土台となる資料探しはとっても重要です! イラストのラフを描く時間より長いぐらいです。

STEP2. ラフ作成~ラフ監修提出

―――江川さんのラフ作成の手法を具体的に教えてください。

事前調査の段階で膨らませた「こういうイラストを描きたい!」という脳内イメージを、実際にポケモンカードゲームのイラストの枠で表現できるかを検証するために、メモ書き程度のラフをザザッとした線で描きます。
「最高だ!」と脳内イメージで思い描いていても、実際イラストの枠の中にラフスケッチ書きをしてみたら、「思ったよりダサいな……!?」ということもよくありますね(笑)。たくさんのメモを描きながら「顔の向きはこっちのほうがカッコいいかな?」「ポーズは左右反転しているほうがカッコいいかな?」などとあれこれ考えながら、試行錯誤を繰り返し、脳内イメージと実際の絵面をすり合わせていきます。イラストによってはこの段階で丸一日かけて何度も描く事もあります。

ラフ1
ラフ2
ラフ3

ポーズや構図があらかた決まったら、ラフの段階でおおまかな着彩もします。
自分の場合は背景や陰影も含め、イラスト全体の完成形が想像できるようにラフを制作しています。

ラフ完成!

―――「ラフ監修」はクリーチャーズと株式会社ポケモンで行います。この監修は、ポケモンやポケモンカードゲームらしさを大切にすることを基本にした作業です。実際に監修のあとには、どのようなフィードバックやアドバイスが届くのでしょうか。

※「監修」とは、描かれているポケモンの形状や世界観が、そもそもの設定と差異がないかや、よりポケモンらしく描くためのアイディアの有無を検証する作業です。

一番多いのは、ポケモンの姿形についてですね。ポケモンの特徴を正しくかつより魅力的に表現するため、フォルムの緻密な調整をお願いされることがよくあります。同じく、ポケモンに色彩を施す場合も同じです。
自分は陰影を濃く描くことが好きで、絵が暗めになってしまうクセがあるのですが、制作したポケモンのラフについては「もう少し本物の色に寄せてください」や「元の色味がわかるように調整してください」というアドバイスがとても多いです。
印刷されて実際のカードとして印刷されるときに暗いイラストにならないように、「もっと明るく調整してください」と指摘を受けることもたびたびあります。

監修

STEP3. 着彩

―――江川さんが使っている画材や機材を教えてください。

自分の場合は、すべてデジタル機器で作業をしています。イラストを描くのに液晶タブレットを、その隣にもう一台資料を映し出すのにモニターを使っています。使用するソフトはPhotoshopです。

―――着彩はどのように行っていますか。

手順として、最初に背景を描いてから、ポケモンを着彩することが多いです。やっぱり「イラストの中でメインとなるポケモンを描きたい!」という気持ちが強いので、先にポケモンにとりかかると、逆に背景を描くモチベーションが下がっちゃいます(笑)。その気持ちをグっとこらえて、ポケモンと背景にクオリティの差が出ないように、先にポケモンを取り巻く環境から描き始めることが多いです。
背景を描くときは、写真素材や実際の風景を参考にしながらリアルさをめざすと同時に、イラストならではの質感が出るようバランスを調整しながら進めていきます。

着彩1
ラフだと少し色が寂しかったので背景にも鮮やかな色味なども追加して…背景が大体できあがり

背景が8割ぐらい出来上がったら「ヨシ」と一息ついて、ポケモンを着彩し始めます。
ポケモン自体のレイヤーを線画や色、陰影で分けず、上から色を塗り重ねて描く、いわゆる「厚塗り」で制作をしますね。着彩の工程で色を描き加えながら、同時に形状も調整して完成形に近づけていきます。

着彩2
着彩3
着彩4
納得するまで、何度も塗り重ねていきます

ポケモンの着彩で心がけているのは、質感をなるべくリアルに描くことです。そのポケモンに触れたとき、冷たいのか、温かいのか、硬いのか、フサフサしているのか。そんな想像をしながら描いていきます。
思い描いたとおりに、ポケモンの体の表面に質感を加えるように色のムラも意識して入れています。例えばミロカロスには、体の表面のペールオレンジに対して、色相の近いオレンジや赤を加え、色の均一さをあえて無くして、生き物ならではの質感を出していきます。さらに遊び感覚で青や緑も思い切って入れたりして、様々な色をポケモンの中に詰め込み、肌の透明感や、周囲の水の反射が映り込んでいるさまなどを表現していますね。

ほぼ完成
塗り重ねを経てポケモンも大体できあがり

Photoshopのスポイト機能を使うと、風景写真から多種多様な色を取り出せますが、現実の世界は、このように多様な色が重なって出来ています。現実の色の豊かさをイラストで再現できるよう、色ムラを入れているんです。

STEP4. 仕上げ

―――「仕上げ」の際に行っているエフェクトや加工について教えてください。

デジタルの作画の場合、エフェクトや加工、調整を後からできるのがありがたい点ですね!
例えば太陽が輝いている場面では、その周囲の反射光によるふんわりとした明るさや、空中の湿気が光っている感じなどを仕上げの段階で描き足すことができます。
先ほども言いましたが、自分のイラストは全体的に暗くなってしまうクセがあるので、印刷したときに色が沈んで陰影がつぶれないよう、この仕上げの時点で一気に明るくすることも多いです。
エフェクトについては、絵全体を見た時の目線の流れやリズムを意識し、ポケモンがどう動いている最中なのかを、線や光などの軌跡で描くことが多いです。
あとは、時間が許す限りディテールをガンガン描き足したり、形状などのセルフリテイクをしたりします。

エフェクト追加のビフォー(左)・アフター(右)
加工、エフェクト追加のビフォー(左)・アフター(右)

―――ラフ作成、着彩、仕上げ。それぞれの作業工程で一番パワーがかかるのはどの段階ですか。

イラスト制作でパワーが一番かかるのは、ラフ作成ですね! 自分にとって、ラフはイラストの設計図のイメージです。例えば家を造るときに、設計図や土壌調査も無いまま、むやみやたらにレンガを積み上げていったら、すぐに壊れてしまう家しか造れません。イラストも同じです。ラフの段階で完成形が想像できる状態に持っていくために、最もパワーを使います。

作業風景

STEP5.完成!

―――江川さんの中で「これで完成だ」と思える基準は、どのように設けていますか。

人に見せて恥ずかしくないかどうか。プロの作品として、商品として成り立つかどうか。これが自分の中での最低限の守るべき基準です。この基準をクリアして、さらに作品に手を加えているとき、「あれ? 俺、めっちゃ絵がうまいな!」「キター!」と思う瞬間があります! 感覚的ではありますが、そこに至るまでただ誠実に描き込んでいく……。それが自分の作品の完成ラインだと思っています。ポケモンカードゲームのイラスト制作は自分にとって大切なお仕事ですので、私自身のスタンスとしては、心からよいと思えるイラストでなければ、人に見せてはならないと思っています。

―――イラストが完成したときの達成感について教えてください。

完成したイラストをクリーチャーズさんに納品して、「やり切ったー!」と思えた瞬間に達成感を感じます。クリーチャーズさんは完成したイラストに、いつも丁寧で温かいコメントをくださるので、安心感や喜びを覚えます。そしてなにより「仕事をやり遂げた」と思えるのは、ポケモンカードゲームとして実際のカードが世に出た瞬間ですね!。その時の達成感は何ものにも代えがたく、この瞬間のために生きていると言ってもいいほどです(笑)。

完成
完成!

最後に

―――「Pokémon Trading Card Game イラストレーションコンテスト 2022」への応募を考えていらっしゃる皆さんへ、エールをお送りください。

なによりもまず、心から楽しんで描いていただけたらと思います。もちろん、イラスト制作にはしんどい側面があります。うまく描けなかったり、いい感じにならなかったり……。ただ、これは創作に付き物です。そんな中でも、小さな達成感を感じたり、人に褒めてもらったりするなど、絵を描く楽しみを見つけながら、「好きなポケモンを描いているんだ!」という楽しい気持ちで取り組んでいただけたらと思います! これが私からのエールです。
次に、流行や人の意見など、なにかにとらわれすぎずに、自分らしさや自分がいいと思う価値観を大切に描いてほしいと思います。自分と、自分の絵だけが持っている真の個性を見つめて、自由に伸び伸びと描いていただきたいです。

自分も過去にイラストコンテストに応募した経験があります。そのときの体験談ですが、どんなにいいイラストが描けても「この絵はきっと落ちるだろうな」とか「ダメだろうな」とか、ネガティブなことを口に出したり、頭の中でくり返し思ったりしていると、必ず落選してしまうんです(笑)。どんな時でも自分のイラストに自信を持つことがとても大切です。一生懸命育てた相棒であるポケモンのイラストと共に、ポケモンバトルに出場するイメージです。自信と信頼をもって会心の作品をバトルフィールドに送り出すように、提出してください!

江川あきら

構成・文:元宮秀介(ワンナップ) 撮影:山本佳代子

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