コラム

ポケモンカードゲームのイラスト制作の
ポイント​

ポケモンカードゲームの開発において、アート全体とイラストのクオリティを管理するクリーチャーズの長屋悟と齊藤はる、そして海外向け商品を監修するThe Pokémon Company Internationalのクリス フランクに、「ポケモンカードゲームのイラスト制作のポイント」について話を伺いました。

長屋 悟

株式会社クリーチャーズ
ポケモンカード開発本部 カード開発部
アートデザインチーム アートディレクター

ポケモンカードゲームのアートディレクターとして、ポケモンカードゲーム全体のアートディレクションを担当している。ポケモンカードゲームは国内外で販売されているため、株式会社ポケモン、The Pokémon Company Internationalに、新シリーズで制作したフォーマットや新カードのロゴ(ポケモンVなど)などのデザイン意図を共有し、全ての商品のデザインに統一感がもたらされるように管理も行っている。

齊藤 はる

株式会社クリーチャーズ
ポケモンカード開発本部 カード開発部
イラストチーム イラストディレクター

ポケモンカードゲームのイラストディレクターとして、イラストの全体のクオリティ管理、企画などのディレクションを担当している。
また、シリーズを通したイラストのコンセプトを固めるという重要な役割も担っている。企画段階のコンセプトイラスト、イメージアートなども自ら制作する。

クリス フランク

The Pokémon Company International
グラフィックデザインディレクター

グラフィックデザインディレクターとして、アジア地域以外において発売されるポケモン商品におけるアートディレクションを担当。
株式会社ポケモン、株式会社ゲームフリーク、株式会社クリーチャーズから提供されたイラストや素材に基づいて、海外向け商品の全体的なルックアンドフィール(見た目や雰囲気)を監督している。

The Pokémon Company Internationalとは
株式会社ポケモンの海外子会社である The Pokémon Company International は、アジア地域以外においてブランド管理、ライセンス供与、マーケティング、ポケモンカードゲーム、テレビアニメシリーズ、その他商品やサービス、および管轄地域におけるポケモンの公式ウェブサイトを担当している。

―――『ポケットモンスター』はビデオゲームから始まり、トレーディングカードゲームやアニメ作品が発表され、大きく発展してきました。その中で、ポケモンカードゲームとはどんなコンテンツなのか。改めて教えてください。

長屋:ポケモンカードゲームは、ゲームソフト『ポケットモンスター』シリーズの世界観を原作に持つトレーディングカードゲームです。日本発祥のトレーディングカードゲームとして最も歴史のある作品になります。それぞれのカードに多彩な効果があり、自分の好みに合わせたデッキ(※1)を構築する楽しみがあります。そして、デッキを使って戦略的な対戦をくり広げる面白さがあります。対戦の始まりや終わりに選手同士が挨拶をしたり握手をしたりする対人戦だからこそのコミュニケーションも、大きな魅力です。加えて、ワクワクしながらパックを開けて、カードの入手を喜んだり、様々なイラストを眺めたりと、カードを手にする人それぞれの楽しみ方があるところも、ポケモンカードゲームの大きな特徴になっています。

※1…デッキとは、プレイヤーがゲームをするために組まれたカードのセットのこと。ポケモンカードゲームでは、60枚でデッキを構築する。

―――ポケモンカードゲームの魅力をアートディレクターとイラストディレクター、そしてアジア地域以外の担当の立場からそれぞれ語ってください。

長屋:現在ポケモンカードゲームのイラストレーターは、150名以上いらっしゃいます。つまり、150種類以上ものイラストのバリエーションがあるわけです。その豊かなアートの世界を鑑賞したり、コレクションしたりする楽しみが、ポケモンカードゲームの魅力のひとつでもあり、イラストにおいて開発当初から最も大切にしていることでもあります。

齊藤:たとえば同じ種類のポケモンでも、カードによって表情やストーリーが多様に描かれており、新たなカードを手に取るたびに、毎回違うポケモンに出会える喜びがあります。私たちは、ユーザーにこの感動を味わってもらえることを願っていますし、今後も大切にしていきたいです。

クリス:ポケモンカードゲームの魅力は多種多様ですが、その中でもカードイラストは見た瞬間に人々をポケモンの世界に引き込む、最も魅力的な要素といえるかもしれません。 カードイラストはバラエティに富んでいて、各イラストレーターのユニークな思考と独自のスタイルにより出来上がるイラストは見ていてワクワクします。新しいカードを見るたびに私は思わず笑顔になります。
もうひとつの要素は制作側からの観点ですが、カードが出来上がるまでには細かい内容について万全の注意が払われカードが制作されることです。
カードの様々なパーツやパッケージアートの素材はクリーチャーズが制作しますが、素材が制作された時の想いを尊重し細心の注意を払い作業を進めます。カード素材を受け取った瞬間から印刷するまで、元となる日本のカードと同じクオリティーであるよう細かい部分の確認を怠らず、多くの時間を費やしカードが制作されていきます。ポケモンカードゲームをどこで購入しても、世界中のすべてのファンにとって同じ経験となるよう、私達は日本のカードと同じクオリティーを保つために日々真剣に取り組んでいます。

―――ポケモンカードゲームのイラストは原寸で、横54mm×縦34mmです。このサイズ感が面白さであり、創作上の制約でもあると思います。この限られた枠の中でポケモンの魅力を最大限に引き出すコツを教えてください。

長屋:ポケモンと背景のバランスを考えて、一枚のイラストの中でポケモンが何をしているのか。それがしっかりわかるような構図になっているかどうかを検討することは、とても重要です。構図が魅力を引き出すコツのひとつだと思います。

齊藤:最近ではパソコンなどを使って、デジタルでイラストを描くことが、ごく普通になっています。デジタルなら、たとえ小さいサイズのイラストでも、描く側も、見る側も自由に拡大することができます。つまり現代のイラストというものは、描く人にとっては描き込む情報量が、見る人にとっては鑑賞する情報量が、非常に増えていると思っています。ポケモンカードゲームのカードは、リアルな存在です。印刷されてユーザーの手元に直接届きますので、小さな枠のサイズのまま、イラストを目にすることになります。デジタルのイラストとは違い、拡大することはできません。イラストレーターは、このようにカードを手に取ったユーザーの目線を常に意識して、イラストの見やすさや情報量を考え、伝えたいことをダイレクトに表現して描いています。ここが他のデジタルの媒体でのイラストのお仕事と違うポイントだと思っています。一枚のイラストにぜんぶを詰め込むのではなく、一枚のイラストだけで伝えられることをシンプルに表現することが、ポケモンカードゲームで絵作りをするコツだと思っています。

―――カード全体が大きなイラストになっているカードもあります。今回の「Pokémon Trading Card Game イラストレーションコンテスト 2022」で、基本サイズのイラストの枠を選んだ理由を教えてください。

齊藤:今回、指定しているイラストのサイズは、最も多くのユーザーに届くカードのイラストサイズです。ポケモンカードゲームが一番大切にしている想い、「ポケモンが実在する世界観をユーザーに想像させること」が詰め込まれている、一番基本的なサイズです。ポケモンカードゲームへの理解度や表現の幅を見せていただくために、こちらのサイズを指定しました。

―――ポケモンカードゲームのイラストの面白さとして、ポケモンの生態や戦いを描けることが挙げられます。ポケモンの生態や戦いを描く際のポイントについてお聞かせください。

齊藤:何かのイラストを描くとき、被写体のことを事前に下調べすることがとても大事だと思います。ポケモンカードゲームでは特に、対象のポケモンの特徴や個性を、展開されている様々な媒体からインプットしていただくことが重要となります。たとえばビデオゲームの『ポケットモンスター』シリーズのポケモン図鑑や戦闘シーンを見たり、そのポケモンが活躍するエピソードを体験したり。アニメの『ポケットモンスター』を観ることでも、ポケモンの特徴を理解することができます。このように、まずポケモンに関する知識を吸収していただいて、次に得た情報を自分なりに噛み砕き、「このポケモンはこういうふうに生きているのではないか」と想像することが大切な作業となります。「もし、このポケモンが現実世界に存在するとしたらどのように生きているのだろう」とイメージしていただくことで、イラストの説得力が増すと思います。ただし、注意していただきたいのが、想像のしすぎは禁物だということです。想像の結果、ポケモンの世界にはないオリジナルの動植物を描いたり、ポケモンらしさを損ねてしまったりすると、ポケモンの世界観が壊れてしまい、本来伝えたいことから外れてしまいます。

―――ポケモンカードゲームのイラストが大切にしている考え方について、具体的な指標を教えてください。

齊藤:ポケモンカードゲームは、トレーディングカードゲームです。ユーザーが手に取ったとき、いつもワクワクした気持ちで開封できることを大切にしています。私たちには、ユーザーがポケモンと出会う新鮮な喜びを生み出したい、という想いがあります。この感動を創り出すために、ポケモンカードゲーム公認イラストレーターの皆様にはご自身の個性を一枚のイラストにぶつけてもらい、自分らしさを全面に出して描いていただきいと思っています。それでも、ポケモンがこれまで提案してきた世界観を守ることは前提となっています。たとえば、世界中の子供から大人までが手に取って楽しめること。たくさんの人の手に届くからこそ、意識的に多種多様な人々にとって健全であること。「ポケモンはいつもあなたの相棒である」ことなどです。
ご自身の作家性を表現するときには、そういった世界観を壊してしまわないようにしつつ、ご自身も楽しい気持ちでイラストを描いていただきたいです。

―――ポケモンごとに異なる能力や生態も重要になってくると思います。イラストを描く際に、どのように表現すればいいのでしょうか。

齊藤:そのポケモンの特徴をしっかり捉えて表現することが求められるので、そのポケモンのことを調べたうえで、自分の作家性やタッチ、表現の幅にマッチする部分を探すことが重要だと思っています。ポケモンらしさと自分らしさがマッチする親和性の高いポイントを描いていただければ、独自性の高いイラストが生み出されるのではないかと思います。

―――今回の「Pokémon Trading Card Game イラストレーションコンテスト 2022」のテーマは、「ポケモンの日常(生活)」です。なぜこのテーマに決めたのか、狙いと目的を教えてください。

長屋:ポケモンカードゲームのイラストが本来持っている幅の広さに立ち返りました。「ポケモンの日常(生活)」というテーマには、ポケモンが戦っている場面もあれば、のんびりとくつろいでいる場面も含まれます。ポケモンの様々な場面を描いたイラストに出会えることを期待しています。また、今回のコンテストは新たに日米で同時開催するので、普遍性の高いテーマにした、という理由もあります。

―――テーマについてさらにくわしくお聞かせください。「ポケモンの日常(生活)」というテーマの解釈は、応募者に委ねられていますね。良い意味で挑戦的なテーマだと感じました。

長屋:応募される方々がどれだけ想像を膨らませられるかがポイントだと思います。もちろん「日常」というキーワードは、多義的に解釈できます。「このポケモンならこういうことをするよね」と簡単に思いつくこと以外の、別の日常を描いてくだされば、より主張のある目立ったイラストになると思います。このように想像力が重要になってくると思います。

齊藤:私たち作り手よりも、「ポケモンについてたくさんのことを説明できる!」というくらいの強い気持ちで描いてほしいです。描く人が「ポケモンの日常(生活)」について考えれば考えるほど、リアリティが立ち上がってくると思います。

―――ポケモンカードゲームは25年もの歴史があります。クリーチャーズがイラストに求めるものはなんでしょうか。

長屋:私たちがポケモンカードゲームのイラストに求めるのは、「見る人の心に残ってほしい」ということです。イラストの中には、多くの人たちの心を掴む作品もあれば、少数の人たちから熱い支持を得る作品もあります。私たちが願うのは、「その人にとって忘れられないイラストになってほしい」ということです。賛同数の大小はあまり意識しなくていいので、手に取ってくれた人の思い出になる一枚になることを願っています。

―――「Pokémon Trading Card Game イラストレーションコンテスト 2022」は、アメリカ合衆国からも応募者を募ります。海外の応募者に期待するのはどのようなことでしょうか。

長屋:現在のポケモンカードゲームは、日本のクリーチャーズがカードを制作し、アメリカ合衆国をはじめとする世界中で展開しています。こうした環境の中では、海外のユーザーが、日本人とは異なる感性で「こんなイラストがあったらいいのになあ」と思うことがきっとあるでしょう。実際にそういう想いを持った人が「こういうイラストはどうだい?」と、新たな提案をしてくださることを期待しています。私たちとしても「こんな表現の仕方があったのか!」という発見があると、とてもうれしいです。

齊藤:日本の芸術やアートは、独特です。線で形を描き、その中を塗っていく手法が好まれます。版画の手法を大基にした、塗り絵的な表現方法がどんどん発展し、漫画やイラストの文化が先鋭化してきたと思っています。一方、西洋で描かれてきた芸術は、光を捉えて色をのせていく作り方をしています。目に映るものを絵として描く視点や価値観が、日本とはまったく異なる発展を遂げてきているのではないでしょうか。このような表現の方法や情報の落とし込み方の違いを、「Pokémon Trading Card Game イラストレーションコンテスト 2022」ではぜひお見せいただきたいです。海外のコミックもとてもカッコいいので、カートゥーン調、アメコミ調のものも期待しています。また、海外で発展しているアニメーションや映画は、キャラクターのビジュアルやデザインの個性より、そのキャラクターが織りなす世界観やストーリーに焦点が当てられているものが多いと感じています。ポケモンカードゲームが表現したい「ポケモンが実在する世界観をユーザーに想像させること」は、海外の方の視点や、表現力とも、とてもマッチするはずです。拝見できるのを心から楽しみにしています。

クリス:皆さんがこのコンテストのためにどのようなイラストを制作するのか、とても楽しみにしています。多様な文化や背景を持つファンの皆さんが描き出す、幅広いアートスタイルや興味深いストーリー、イラスト内に描かれるポケモンの楽しい交流を見れることを期待しています。ポケモンカードゲームで特に好きなのは、ポケモンがイラスト内で忠実に描かれていれば、どのようなアートスタイルでも魅力的なイラストが出来上がることです。 ポケモンカードゲームのイラストは、壮絶なバトルの中であろうと、昼寝をしているところであろうと、そのポケモンの日常生活にある瞬間を切り取った一コマを提供しているのです。

―――最後に「Pokémon Trading Card Game イラストレーションコンテスト 2022」への応募を考えている人に向けて、メッセージをお願いします。

長屋:ポケモンカードゲームは、世界中の人々の手に渡るコンテンツです。イラストの制作において、ビデオゲームの『ポケットモンスター』シリーズ、そしてポケモンカードゲームの世界観を正しく伝えることはとても重要なことです。この世界観を守ったうえで、皆様の個性を活かしたイラストを描いていただきたいと思っています。「ポケモンの日常(生活)」を、ぜひご自身の表現方法で描いてください。
いただいた作品は、ひとつひとつ丁寧に審査していきたいと思っています。その中で、いままでにない新たな魅力や表現を発見できたら嬉しいです。
たくさんのイラストとの出会いを楽しみにしています。張り切って応募していただければと思います。

齊藤:ポケモンカードゲームは、世界中の子どもから大人まで、たくさんの方々に届ける商品です。手に取った誰かに力や元気を与えられるように、一枚のイラストにしっかり想いを込めて、全力で応募してください。

クリス:一番大切なのは楽しむことだと思います。 すべての人にそれぞれの物語があるように、すべてのポケモンにも特別なストーリーがあります。 自分のイラスト、選んだポケモンに忠実であるならば、それは必ずイラストに表現されるでしょう。

構成・文:元宮秀介(ワンナップ) 撮影:山本佳代子

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