コラム

ポケモンカードゲーム公認イラストレーター対談
江川 あきら × さとう なるみ​

「Pokémon Trading Card Game イラストレーションコンテスト 2022」への応募に向けて作品づくりをしている皆様へ、創作のヒントとなるように、ポケモンカードゲーム公認イラストレーターの江川あきら氏と、さとうなるみ氏の対談をお届けします。
※当日はオンライン通話にて対談を行いました。

江川 あきら

イラストレーター・キャラクターデザイナー。2019年よりポケモンカードゲーム公認イラストレーターとしてイラストを制作。3Dモデラー時代の経験を活かし、ゲーム、書籍、展示やプロダクトなど、様々な分野で活動している。「カッコいいとはなにか」を求めて日々修行中。『ポケットモンスター 金・銀』『ポケットモンスター クリスタルバージョン』からポケモンに触れており、ミュウツーが大好き。

さとう なるみ

イラストレーター。「第1回 ポケモンカードゲーム イラストグランプリ」準グランプリ受賞。
2020年よりポケモンカードゲーム公認イラストレーターとしてイラスト制作に参加。ポケモンたちの何気ない日常のひとコマを透明水彩の柔らかいタッチで描く。好きなポケモンはアーケオス。

お二人にとっての「ポケモンの日常(生活)」とは?

―――「Pokémon Trading Card Game イラストレーションコンテスト 2022」のテーマは、「ポケモンの日常(生活)」です。ご自身が手がけたポケモンカードゲームのイラストから、この主題で描いたものを挙げてください。また、そのイラストでどのように「日常(生活)」を表現されているのかも教えてください。

江川:自分の作品からはキュウコンとゴーリキーのイラストをピックアップさせてください。
まずキュウコンについて、ポケモン図鑑には、1000年生きると言われていると書いてあります。キュウコンのイラストには、背景に街があります。1000年の間に、きっと何もない土地に人が住み始め、村が生まれ、街が栄え……。そんな日々の移ろいこそが、このキュウコンが長い年月の間ずっと見守ってきた「日常」なのだろうとイメージしながら、背景の街やカメラワークに力を注いで描きました。

そしてゴーリキーのイラストの背景には、暖かい国のガレージのようなものを描きました。日頃はガレージのオーナーと一緒に車やメカをいじりながら暮らしていて、泥棒やゴロツキが来たときには強いパンチで退治してくれるんじゃないかな、なんて。キュウコンもゴーリキーも、人とポケモンとが生活する距離感はまったく違いますが、近くても遠くても隣り合う世界にいる感じ……。それを「ポケモンの日常」だと考えて表現しています。

キュウコン」イラストレーター:江川あきら
ポケモンカードゲーム ソード&シールド 強化拡張パック「VMAXライジング」収録
ポケモンカードゲーム ソード&シールド 「Vスタートデッキ炎 ガオガエン」 収録

ゴーリキー」イラストレーター:江川あきら
ポケモンカードゲーム ソード&シールド 拡張パック「仰天のボルテッカー」収録

さとう:私はポケモンのふとした瞬間をイラストで描きたいと思っています。なので、おのずと日常を表現した作品が多いです。最近、特に「日常」を意識して描いたのは、グレイシアVのイラストです。グレイシアの一日を想像して、朝起きて何を食べるのかな? 昼間は何をするのかな? 夜はどこで眠るのかな? とストーリーを考えて、その中のワンシーンを切り取って描きました。イメージを膨らませて、例えばグレイシアはこおりタイプなので、少しクールなイメージにしようかなとか、少し大人びた雰囲気にしてみようかなとか、そういうことを考えました。

グレイシアV」イラストレーター:さとうなるみ
ポケモンカードゲーム ソード&シールド 強化拡張パック「イーブイヒーローズ」収録

江川:このグレイシア、なんというかちょっとセクシーですよね! お花を見つめる目線とか、大人っぽい感じがするな〜と思いました。

さとう:うれしいです。私自身「美しいよな、グレイシアは」と思いながら描いたので(笑)。

―――さとうさんは江川さんの作品の中から、好きなイラストを1枚選ぶとしたら、どれにしますか。また、どこに注目したのかもお聞かせください。

さとう:私はキュウコンのイラストが好きです。奥に街の明かりが見え、さらにその奥に月が配置されていて、吸い込まれるような奥行きを感じる、全体的に気持ちのいい絵だなぁ、と思いました。

―――さとうさんの「気持ちのいい絵」は、よい褒め言葉ですね。

江川:目線の流れなども大切にしているので気持ちよさを感じていただけたのは、とてもうれしいです!

―――江川さんは、さとうさんの作品の中で1枚を選ぶとしたら、どれでしょうか?

江川:めちゃ迷ったのですが、マナフィを推させてください。
さとうさんのイラストはこのマナフィをはじめ、どのイラストも目線が素敵だなと感じています。カメラ目線ではなく、なにかを見つめている目……。そこにとてもドラマ性を感じるのです。
マナフィも目線がすごく好きです。マナフィの過去の図鑑テキストには、冷たい海の底で生まれたと書かれており、このマナフィが画面左上の濃いターコイズブルーの海の底から上がってきて、今、初めて暖かい海岸にたどり着いた瞬間なのかな! とイメージが沸きました。
目に入っている強いハイライトは、大きな太陽の映り込みなのかな…?とか、ほかにもビーチや島の木々が映っているのかな…?とか、想像力を掻き立てられるところが、このイラストの推しポイントです。

マナフィ」イラストレーター:さとうなるみ
ポケモンカードゲーム ソード&シールド 「スターターセットVMAX カメックス」収録

さとう:確かにポケモンの目線は気にして描くことが多いですね。マナフィは海から出てきたばかりで、新たな環境を見上げているような感じに仕上げました。

ポケモンカードゲームのイラスト制作における工夫

―――ポケモンカードゲームのイラストを描く際、「ポケモンらしさ」を意識されると思います。「ポケモンらしさ」を表現するときに、気をつけていることがあれば教えてください。

江川:ポケモンは人間とも動物とも違う、「ポケモン」という存在だと思っています。ポケモンの見た目やポケモン図鑑のテキストなどの情報をもとに、余白の部分に今回のコンテストであれば「日常」のようなテーマやコンセプトを描くことが「ポケモンらしさ」を表現するときのこだわりです。そのためにも想像を広げることが大切だと思っています。

さとう:深いですね! 私は自分の感覚に従って、ポケモンの形状のバランスにとても気をつけて描いています。江川さんがおっしゃったようにポケモンは、不思議な生き物です。この不思議さを大切にして、骨格や筋肉などをリアルに考えすぎないようにします。そして、ポケモンの資料を大切にしながら、自分の感覚でデフォルメし、やわらかさを感じられるようにする。このようにバランスをとりながら描いています。

―――ポケモンカードゲームのイラストを描くうえで、オリジナリティを出すために工夫していることはありますか?

江川:自分は、ポケモンの質感や凹凸のディテールにとてもこだわりを持って描いています。ポケモンに実際に触ったらどういう感じかを想像しながら、ポケモンのイメージから逸脱しない範囲で、毛並みのモフモフ感や筋肉を強調して描くなど、質感のリアルさを表現するように心がけていますね。反対に、背景はあまり事細かに描き込みすぎず、想像の余地を残す代わりに、ポケモンを強く、リアルに「ドン!」と押し出すことを意識しています。

さとう:私は自分の好きな描き方で、自分の出したい表現を自然に押し出していけば、オリジナリティを表現できる、と思っています。最初に言った「ポケモンのふとした瞬間のイラストを描きたい」というのは、「ふわっ」としたやわらかい雰囲気でポケモンたちの日常感を出したいということです。色をどんどん重ねていくと、立体感はありますが、絵が重たくなり、重厚感が出てしまいます。重厚感を出しすぎないように、やわらかい雰囲気に仕上げつつも、やはり重ね塗りはしたい。そのバランスを探っていって、最終的に透明水彩を使うようになりました。ポケモンカードゲームの私の作品はすべて透明水彩で描いています。表現したいことをうまく実現できるように、画材にもこだわっています。

さとうさんが実際にイラスト制作に使用している画材がこちら。

―――ポケモンカードゲームのイラストを作画する際、こだわっているポイントを教えてください。

江川:自分が特にこだわっているポイントは、ポケモンが生きているという質感を出すことです。先ほどポケモンは人間でも動物でもない特別な存在である、とお話ししましたが、地上に生きている以上、ポケモンも体内に血がめぐっているのではないかなと思っています。勝手な想像ではありますが(笑)。実際に血であるかどうかはさておき、身体の中に赤い熱や闘志のような生きる力が感じられるイラストを描くことを心がけていますね。

さとう:「ポケモンの自然な感じを出したい」とくり返し言っているのですが、私はこの目標を突き詰めたいと思っています。子どもの頃から「ポケモン」という作品にずっと触れていたので、日常の中にポケモンがいるイメージが湧きやすいのです。何気ない瞬間を描いていきたいと思い、そこにこだわって、いつもイラストを制作しています。ポケモンが自然体で、カメラ目線ではない感じを意識しています。

―――ポケモンカードゲームのイラストを描く際、技術を磨くために努力していることを教えてください。

江川:かわいいもの、かっこいいもの、強いコンセプトがあるもの……。どんな発注にも柔軟に対応できるように、日頃から絵に限らず、写真や文章、音楽や食べ物、話すこと……。絵に限らず、日頃から様々なデザインやカルチャーに分け隔てなく触れて、自分自身の目や感覚を鍛えています。「これが絶対的に至高で、完全です」と答えを決めつけない。広い視野でものを見るための柔軟さのためのトレーニングかなと思っています。あとはメンタルトレーニングも大事ですね!

さとう:ポケモンカードゲームのイラストは、背景もとても大事だと思うので、背景を描く技術をもっと磨きたいと思っています。背景の資料や、パースや構図の描き方がわかる初心者向けの入門書をたくさん読みました。
散歩に行って、「この感じ、いいなあ」と思った風景やシチュエーションをスケッチしたり、写真に撮ったりしています。このように日々アイデアを蓄えるようにしています。

江川:マナフィのこの海のリアルな風合いを描けるのも納得ですよね。実際に海へ行かれたのですか?

さとう:行きたかったのですが、時期的に厳しくて。YouTubeでずっと波の動画を観ていました(笑)。

―――ポケモンカードゲームのイラストを描く際、難しいと感じることを教えてください。

江川:ポケモンは個々に姿かたちや色に特徴があります。自分は見映えのためにライティングやポーズに凝って誇張しすぎる癖があるので、ポケモンの持つイメージからしばしば逸脱してしまうことがあり、難しさを感じています。ただ、ポケモンが持つイメージがしっかりしているからこそ、ポケモンの種としての生態をリアルに描くことができるのだと感じています。ポケモンの資料をしっかりと読み込んだ上で、自分の描く個体としての個性を乗せていく感覚が、難しさでもあり喜びを感じる点でもあると思っています。
個人的には、ポケモンのポーズや絵の構図について、カッコよさや見映えを意識しながら、さらに新しいカメラワークやポーズ、演出を開発していくのが今後の課題になると感じています。

さとう:ものすごくわかります(笑)。自分も構図をこんなふうにカメラに収めたいとパッと思いついたアイデアが、実際のポケモンカードゲームのイラストの枠に入らないことがあります。だから、まずイラストの構図を枠に収めるのが難しいです。次にポケモンが自分の描きやすいものに寄ってしまう難しさがあります。ポケモンの資料を見ながら「ポケモンっぽく」「それらしく」と思って描くのですが、監修の指摘通りに直すと、本当に不思議なくらいポケモンらしくなることが多くて、ポケモンたちの表情は絶妙なバランスのうえにあるのだなあと痛感します。

お二人が手がけたカードイラストの一部。(左側がさとうなるみさん、右側が江川あきらさん)

イラストレーターとしてポケモンカードに携わる楽しさとは?

―――今後、ポケモンカードゲームのイラストでチャレンジしてみたい目標を教えてください。

江川:とにかく、「カッコいい!」「一緒に戦いたい!」と思える熱いイラストを常にめざしているので、前回よりもさらにカッコよく、その次はもっと、というふうに、カッコよさをアップデートしていきたいです。

さとう:私もカッコよさや迫力のあるイラストに憧れがあります。私のイラストは、静と動で言えば静です。ポケモンのふとした瞬間を描いているので、迫力があるようでないのですが、静なのに動を感じられる。そんなイラストを描いてみたいです。あおりや俯瞰、魚眼レンズなどを活かしたイラストに挑戦してみたいと思っています。

―――ご自身のイラストが実際にカードになっているのを見たとき、どんな印象を受け、どんな喜びを感じましたか?

さとう:自分のイラストがポケモンカードゲームになっている。その事実が信じられなくて、実物を手にすると、本当に感動します。自分のものを既存のカードと見比べて「本物だ!」と確認したり、手帳に入れてお守りのように持ち歩いたりしたこともあります(笑)。私のイラストを載せたカードが世界中に存在していることが、いまだに信じられないところもあります。子どもの頃、ポケモンカードを集めて、好きなイラストをファイリングして楽しんでいたタイプだったので、いま自分が描く側にいるのが本当にありがたいことですし、がんばらなくてはと思います。私が描いたカードを、昔の私みたいに集めてくれている人がいるのでは……と想像すると、とてもうれしいです。

江川:わかりすぎます! 本当にカードになったとしみじみと感じますよね……。自分の場合は、担当したイラストのカードが、SNSで「カッコいい!」と写真やコメントで投稿されているのを見かけると本当に幸せな気持ちになります。パッケージを担当させていただいた海外版の拡張パックが発売された際も、海外のスーパーやカードショップなどの店頭に並ぶ自分のイラスト、自宅のリビングで新作カードを散らかして遊ぶ子供、大人買いした拡張のボックスを自撮りするコレクターを写真で目にします。そういった写真を見ると国を越えて「ポケモン」という共通言語がある、と実感します。そして、自分の絵が海の向こうの知らない街の誰かをポジティブにしていることに大きな喜びを感じるのです。ポケモンカードゲームのイラストを担当させていただけることに、何度でも感動や感銘を受け、精進しなくては、と常々感じていますね。

江川あきらさんが手がけた北米版のパッケージイラストの一部。
(Pokémon TCG: Sword & Shield—Chilling Reign)

―――「Pokémon Trading Card Game イラストレーションコンテスト 2022」に応募しようと考えている皆様へアドバイスをお願いします。

江川:まず、実際に商品になったときにどう見えるのかということを押さえていただきたいと思います。例えば印刷されたとき、色味が暗く沈んでしまわないか、逆に白っぽくとんでしまわないかを頭に置いて色を調整することも大切です。
次に、ポケモンと背景の双方が、いい関係を持って共存できる絵であることを意識してほしいと思います。ポケモンを背景で引き立たせながら、絵の中でしっかりと見えるように描いたうえで、どんな場所で「日常」を過ごしているのか想像できるイラストになっていることがポイントです。
そして最後に、ポケモンは、個々に姿かたちや色に特徴があります。実際の生き物を観察するような気持ちで、色味や質感をしっかり追求してほしいです。そのうえで、個体として世界に一匹しかいないポケモン……。つまり、あなただけの個性を持ったポケモンを描いてください!

さとう:メンタル面のお話になります。ポケモンがとても好きで、「このポケモンのイラストを描きたい!」という熱意があればあるほど、大変な制作になると思います。でも、挫折しそうになってもあきらめずに、がんばってほしいです。私自身も、「第1回ポケモンカードゲーム イラストグランプリ」に応募したときは、時間がなく、思うように描けなくて、「もっといいものになるはずなのに」と悩んでいました。けれど、うまく描けないからといって、そのときにあきらめなくて本当に良かったです。応募するだけでも達成感がありますから、ぜひ完成させて応募してほしいと思います。今回のテーマは「ポケモンの日常(生活)」なので、肩の力を抜いて、自分の思うままにポケモンの日常を想像して、生き生きとしたポケモンたちを描いてほしいです。

構成・文:元宮秀介(ワンナップ) 撮影:山本佳代子

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