ILLUSTRATION CONTEST 2024

コラム

「ポケモンカードゲーム イラストグランプリ」受賞者対談

過去2回開催した「ポケモンカードゲーム イラストグランプリ」でグランプリを受賞したお二人をお招きし、ポケモンカードゲームのイラスト制作の面白さや難しさ、そして将来の目標など、様々なテーマについて語っていただきました。

※当日はオンライン通話にて対談を行いました。
また、西田ユウさんのお写真は、過去に掲載していた記事の画像を一部再掲載しております。

さすも 次郎

会社勤めの兼業イラストレーター

「第2回 ポケモンカードゲーム イラストグランプリ」グランプリを受賞。
その場の空気や光、物語を感じる絵を描く事を目標に創作活動を行っている。好きなポケットモンスターシリーズは『ポケットモンスター 金・銀』で、好きなポケモンはリザードン。

西田 ユウ

秋田県出身・在住のイラストレーター、高校非常勤講師

「第1回 ポケモンカードゲーム イラストグランプリ」グランプリを受賞。
その後、2019年よりポケモンカードゲーム公認イラストレーターとしてイラストを制作。”見てくれた人が優しい気持ちになるような作品”を目指している。好きなポケットモンスターシリーズは『ポケットモンスターブラック・ホワイト』で、好きなポケモンはデスマス。

イラスト技術の習得方法とこだわりの画材

―――最初にお二人の経歴を教えてください。

さすも次郎(以下、次郎):学生の頃からイラストを制作し、インターネットなどで発表しておりました。社会人になってからも描き続けており、「第2回 ポケモンカードゲーム イラストグランプリ」でグランプリを受賞してから、プロのイラストレーターとして本格的に活動するようになりました。

西田ユウ(以下、西田):幼い頃から現在まで絵を描き続けています。2017年からフリーランスのイラストレーターとして活動を始めました。その後、「東北イラストレーターズクラブ」というイラストレーターさんの集まりにも所属しました。現在は、母校の高校で非常勤講師と美術部の顧問を勤めています。

―――お二人はどのようにしてイラストの技術を身につけられたのでしょうか。

西田:私は実際に学校で絵を学ぶ機会がなかったのですが、中学生くらいのとき、通信制の絵の講座を受講していました。以来、毎日欠かさず絵を描き続けています。技術を磨くという点では、日々の積み重ねが最も大きいと思います。

次郎:私は、学生時代は美術系の学校に通っており、そこでデッサンや基本的な構図の取り方などを学びました。この経験がイラストの基礎になっていると思うのですが、専攻がファインアート(※)だったので、イラストの技術と直接的な関わりがあるかと言えば微妙かな、という気もしています。イラストという点に絞ると、学生の頃から描き続けていたり、色々な方の作品を沢山見てきたことが、一番自分のイラスト制作に活きていると感じています。

※…純粋な芸術性を追求した作品群を指す。建築、彫刻、絵画など。

―――イラストのお仕事で使っている画材や機材について、こだわりのポイントも含め、教えてください。

次郎:長年Photoshopと板タブレットを愛用しています。

西田:お仕事の時は、デジタル機材で描くことが多いです。私も最初は板タブレットを使っていましたが、途中から液晶タブレットに切り替えました。アナログ感覚で描くのが好きなので、直接描ける液晶タブレットが手に馴染んで、今も使い続けています。

―――西田さんが使っているソフトは何でしょうか。

西田:CLIP STUDIO PAINT(通称クリスタ)です。3~4年間、使い続けています。クリスタにはアナログ感覚で描けるブラシがたくさんあって、使いやすいです。様々なブラシをダウンロードできるのですが、私はザラッとした質感のあるブラシが好きで、いつも活用しています。

ポケモンへの思い入れ

―――そもそも、お二人はポケモンというコンテンツに対して、どのくらいの関心をお持ちだったのでしょうか。

次郎:私はポケモンに対する思い入れが強い世代なので、幼い頃の思い出の多くが、ポケモンと結び付いています。ビデオゲームも遊びましたし、テレビアニメも毎週観ていました。劇場版も毎年父と観に行って、そのすべてが良い思い出になっています。
ポケモンカードゲームも集めていたのですが、幼かったこともあり、正式なルールではなく簡単に遊べるルールを考案して、弟と一緒に遊んでいました。大人になってからも注目し続けていて、SNSで好きなイラストレーターさんが「ポケモンカードゲームの新作に参加しました」と告知されているのを目にしては「この方も描いていらっしゃるのか!」と驚いていました。様々なイラストレーターの方が描いたポケモンを見られる、とても豪華なトレーディングカードゲームだと感じています。

西田:幼い頃から、ポケモンという存在が常にそばにありました。私の場合は、小学生の時に買ってもらったゲームボーイアドバンス用ソフト『ポケットモンスター ファイアレッド』(2004年)が初めて遊んだビデオゲームでした。
アニメも大好きです。初めて観たのは『劇場版ポケットモンスター アドバンスジェネレーション 七夜の願い星 ジラーチ』(2003年)でした。
ポケモンカードゲームは、小学生の頃から集めていました。かわいくてカッコいいカードイラストのコレクションが目当てで、ギフトボックスをクリスマスプレゼントに買ってもらったこともあります。

グランプリ受賞作品のエピソード

―――「ポケモンカードゲーム イラストグランプリ」に、お二人が応募されたイラストについてお伺いいたします。題材にしたポケモンを選んだ理由や制作上のエピソードをお聞かせください。

次郎:私がリザードンを選んだのは、シンプルに「好きだから」という理由が大きいです。私が応募した「第2回 ポケモンカードゲーム イラストグランプリ」のテーマは、「ポケモンのカッコいい瞬間」でした。カッコいいというテーマで安直にリザードンを選んでもよいか悩んだのですが、リザードンは本当にカッコいいので(笑)。思い切って挑戦しました。
描き始めて気づいたのは、リザードンをこのテーマで描くのはとても難しいということです。リザードンはそもそもカッコいいので「自分があえて描く意味があるのか? もっとカッコよく描ける人は沢山いるのでは?」と自問自答しました。自分が描く意味を見つけ出すまでが、苦しかったです。

リザードン」イラストレーター:さすも次郎
「第2回 ポケモンカードゲーム イラストグランプリ」プロモカード

―――その悩みはどのようにして解決したのですか。

次郎:最初は、「カードゲームのイラストらしさ」を意識しすぎたラフばかりを描いていました。しかし、自分に描けるのはこの路線ではないということに気づき、幼い頃にリザードンを心からカッコいいと思っていた気持ちに立ち返りました。思いっきり好きなイラストを描こうと頭を切り替えたのです。幼い頃想像していたリザードンの大きさや、がっしりした印象を表現するために、視点を低くして尻尾を強調した迫力のある構図にしました。戦いに向かうリザードンを応援しているようなイメージです。

―――西田さんはいかがですか。

西田:私はサーナイトを選びました。「第1回 ポケモンカードゲーム イラストグランプリ」も、一人3作品まで応募できる要項でした。様々なポケモンを描きたいと思い、ピカチュウやイーブイ、ダークライ、サーナイトなど、たくさんのポケモンのラフを描いていたのですが、そのうちに締め切り間際になってしまったので、サーナイト一匹に絞ったのです。
私は、サーナイトは優しい雰囲気を持ったポケモンだと思っています。その優しさを表現するために、色合いを工夫しました。ポカポカして、優しい気持ちになれる色合いです。

サーナイト」イラストレーター:西田ユウ
「第1回 ポケモンカードゲーム イラストグランプリ」プロモカード

―――西田さんは次郎さんの、次郎さんは西田さんの受賞イラストについて、感想をお聞かせください。

次郎:西田さんのサーナイトの第一印象は「色がとてもきれいだ」ということです。西田さんの個性が全開の色合いで、本当に魅力的です。光の暖かな感覚が伝わってくるのが素晴らしいですね。

西田:ありがとうございます。次郎さんのリザードンは、凛々しい佇まいと実在感があり、会場の空気感や土埃の表現、炎の揺れる雰囲気が素晴らしくて、これから熱いバトルが始まるドキドキ感が伝わってきます。

―――お二人が受賞されたイラストは、プロモカードとして世に出ました。ご自身のイラストが印刷されたカードを手にした時の感慨をお聞かせください。

西田:私は、仙台にあるポケモンセンタートウホクへ家族と一緒にプロモカードをゲットする旅に出かけました。実際にポケモンセンタートウホクのカードコーナーへ行ったら、「プロモカードをプレゼントします」と書かれたポップが立っていて、うれしくて、ふわふわした気持ちになりました(笑)。スタッフさんがプロモカードを渡してくれる時に「イラストグランプリを受賞された方のカードです!」とご紹介くださいました。「それ、私の作品です」と言うのは気が引けたので「ありがとうございます」とだけ言って、受け取りました。スタッフさんの温かさがとてもありがたかったです。カードの左下に自分の名前が書かれているのを見て、感動しましたね。もともとトレーディングカードゲームが大好きで、カードゲームのイラストを担当したいという目標を抱いていたので、本当にうれしかったです。

―――名前のクレジットはうれしいですよね。

西田:イラストレーターさんの名前は、必ずチェックするポイントです。そこに自分の名前が載るのは、感慨深かったです。

次郎:私も、西田さんと同じように、ポケモンセンターへもらいに行きました(笑)。リザードンのカードをもらった時は、心から感動しました。ポケモンカードゲームは有名ですから、友だちもすごく喜んでくれたのを覚えています。

「VMAXクライマックス」のイラスト制作秘話

―――ハイクラスパック「VMAXクライマックス」向けに、お二人が制作されたポケモンとトレーナーを共に描いたカードについてお聞きします。西田さん、「いちげきウーラオスV」のイラスト制作はいかがでしたか。

西田:CSR(キャラクタースーパーレア)のカードイラストを担当させていただきました。とても光栄でしたね。このイラストでは、ウーラオスとユウリが一緒に修業している場面を描きました。ユウリがウーラオスに戦術を教えてもらっている感じで、激しくしすぎないことを意識しました。息を合わせて一緒にやってみよう!という雰囲気です。

いちげきウーラオスV」イラストレーター:西田ユウ
ポケモンカードゲーム ソード&シールド ハイクラスパック「VMAXクライマックス」収録

―――次郎さんのCHR(キャラクターレア)の「シャワーズ」のイラスト制作はいかがでしたか。

次郎:クリーチャーズさんから、シャワーズとグリーンが水辺を旅しているというテーマをいただき、シャワーズとグリーンの冒険の一瞬を切り取るイメージで制作を行いました。水の表現がポイントだと思ったので、できる限り水の美しさを表現できるように意識しつつ、活き活きとしたシャワーズが描けるように構図を考えました。
シャワーズとグリーンの関係性はもちろん、背景との関わりも含め自然な表現にしたい、と試行錯誤して仕上げたイラストです。

シャワーズ」イラストレーター:さすも次郎
ポケモンカードゲーム ソード&シールド ハイクラスパック「VMAXクライマックス」収録

―――お二人がおたがいのイラストについて感じたことをお聞かせください。

西田:水の表現がきれいですし、水辺特有と思われる植物も種類が豊富で、シャワーズがとても気持ち良さそうに泳いでいて「素敵だなあ」と見入ってしまいます。

次郎:西田さんの「いちげきウーラオスV」のイラストは、シチュエーションのカッコよさとかわいらしさが両立しているのが、とても魅力的だと感じました。ウーラオスとユウリのポーズが揃っている場面は微笑ましいですし、ウーラオスの優しさがにじみ出ているのが好きなポイントです。

―――次郎さんには、この「VMAXクライマックス」から、商品として販売されるカードのイラストを本格的にご担当いただいております。ご自身のイラストのカードを手にするユーザーが増えていく中で、期待していることがあればお聞かせください。

次郎:長期的な目標として、たくさんの方々に私の名前を憶えていただき「この人のカードを集めたい」と思っていただけるようにしたいです。それにはまずユーザーさんに「良かった」と感じていただけるイラストを描かなければ、と思っています。

―――西田さんは「VMAXクライマックス」で初めてパッケージイラストをご担当されましたね。

西田:メールでご連絡をいただいた時は、心から驚きました。まさかパッケージイラストを依頼されるとは夢にも思っていなかったので。

―――うれしさと同時にプレッシャーもありますよね。

西田:私のイラストがポケモンカードゲームのパッケージになると思うとうれしいのですが、正直に言えば、「ちゃんと描けるのだろうか」というプレッシャーと緊張感がありました。

―――カードイラストの制作とパッケージイラストの制作は、やはり違いましたか。

西田:パッケージイラストを制作する際は、ロゴやタイトルなどと一緒にデザインされることを想定し、ロゴ類と被らないように配慮しつつ、それぞれのポケモンたちやキャラクターの特徴を表現できる構図を編み出す必要があります。カードイラストの制作とはその点が大きく異なり、初めてのお仕事なので苦労しました。

―――緊張やプレッシャーはどのようにして解きましたか?

西田:結局、イラストを納品する時まで緊張していました(笑)。イラストの制作中は、『ポケットモンスター ソード・シールド』の追加ダウンロードコンテンツ『ポケットモンスター ソード・シールド エキスパンションパス』(2020年)の「鎧の孤島」「冠の雪原」を改めてプレイして、キャラクターが登場するシーンをじっくり見ながら、キャラクターのことをもっとよく知って、もっと楽しく描こうという思いで取り組んでいました。

「ピカチュウV-UNION」参加への想い

―――お二人とも「ピカチュウV-UNION」のイラストに参加されていますが、いかがでしたか。

次郎:商品用のカードとして、私が初めて担当させていただいたイラストが「ピカチュウV-UNION」です。駆け出しの身なので、自分が参加していいのかな? という不安がありました。
ピカチュウは、幼い頃から本当にたくさん描いてきたので「お仕事で描かせていただけるなんて!」と感動を覚えました。改めてピカチュウを描いて気づいたのは、今まではイメージでピカチュウを描いていたのだな、ということです。それまでは資料を見なくてもピカチュウを描けると思っていたのですが、実際に資料を拝見すると「こうだったのか!」と発見することが多く、ピカチュウへの理解度がいっそう深まりました。

西田:「ピカチュウV-UNION」のイラストは、参加させていただけるだけでうれしくて、楽しく描くことができました。「今後もピカチュウを描ける機会はあるのかな?」と思いながら、この時に描けるベストなピカチュウに仕上げました。

4枚のカードが繋がったイラストの左上に次郎さんのピカチュウが、
左下に西田さんのピカチュウが描かれている。

ピカチュウV-UNION
ポケモンカードゲーム ソード&シールド 拡張パック「25th ANNIVERSARY COLLECTION」収録

ポケモンカードゲームのイラスト制作の目標

―――ポケモンカードゲームのイラスト制作で目標にしていることがありましたら教えてください。

次郎:今後の目標として、ポケモンが実在する世界を切り取ったようなイラストを描いていきたい、と思っています。ポケモンファンの皆さんは「ポケモンが実際にいたら、どんなふうに生きているのか」を想像する楽しみがあると思うのですが、その要素の一つとして私のイラストがお役に立てたら、と願っています。

西田:トレーディングカードゲームをプレイするのが好きなので、私のイラストのカードだけでデッキが組めるようになれば、という夢を抱いています。
ポケモンカードゲーム公認イラストレーターの皆さんの作品をじっくり拝見して、目標とすることもあります。お名前を挙げさせていただくと、さいとうなおき先生はポケモンのカードとトレーナーのカードのどちらもご担当されていますが、私自身それぞれのカッコよさや可愛いらしさの表現に魅せられて、参考にさせていただいております。有田満弘先生は「そこにポケモンが実在するのでは?」と錯覚するようなイラストを精密に描かれていて、見とれてしまいます。

最後に〜ポケモンを上手に描くコツ

―――最後に、今回のイラストコンテストに参加した方や、この記事を読んでポケモンのイラストを描くことに興味を持ち始めた方に向けて、メッセージまたはアドバイスをお願いいたします。

次郎:今、世の中は沢山の上手い絵で溢れています。アマチュアでも、プロに負けないくらい、上手な絵を描く方々が大勢います。上手な絵を見ると「自分が描く必要があるのかな?」とふと思ってしまうこともあると思うのですが、そんなことはまったく気にしないで描いてほしいです。私自身、迷い続けて挑戦を諦めてしまっていたら、ポケモンカードゲームのイラストのお仕事をいただける夢のような機会に恵まれなかったはずです。ですから、絵を描きたいと思っている人は、積極的に挑戦してほしいと願っています。
ポケモンを描くコツでお伝えしたいのは、対象となるポケモンをよく調べることです。これがとても大事な作業だと思っています。ポケモンという存在は、ファンの方々には馴染みすぎていて、イメージだけで描けてしまうことがあります。しかし、より良い表現を目指したい時は、ビデオゲームやアニメなどでポケモンをしっかりと観察してみたり、体のつくりや骨格を意識してみたりするといいと思います。

西田:私も、描きたいポケモンについて、よく知ることが大切だと思っています。ポケモンカードゲームのイラストを見たり、ビデオゲームやアニメ、ぬいぐるみ、フィギュアなど、資料にできるものがたくさんあるので、そういうものを観たり、触ったりして、そのポケモンについてもっと好きになってほしい、と思います。
私自身は、ビデオゲームのポケモン図鑑を見るのが大好きです。調べてみると「このポケモンは思っていたよりも大きいな!」とか「実はこんなに重いんだ!」など、様々な発見があります。このように下調べを重ねていくと「このポケモンはこういう歩き方をするのかな?」とか「こんな場所に生息しているかもしれない!」というふうに、次から次へと発想が浮かんできます。楽しみながらポケモンを好きになって、楽しく描いていただきたいです。

構成・文:元宮秀介(ワンナップ) 撮影:山本佳代子

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